お侍様 小劇場

   “夏休みの若人たちは” (お侍 番外編 117)

〜微妙に枝番(笑)



       2




今日は一応の 終業式という登校日だったので、
試験休みからそのままもう夏休み気分でいた面々も、
我に返ったように、はたまたしょうがないなぁと学校へ集まる日でもあり。
運動部には夏大会への練習なり合宿なりがあるし、
文化部だって、秋にはコンクールや何やが控えているし、
何と言っても文化祭もあるのだ、
準備という名の戦いはもう始まっていると言ってよく。
体育祭や学園祭が、学生主体の運営下で上手に回されており、
しかもしかも
その筋では大名物な行事でもあるこの学校では、(どんな筋?笑)
そういった活動への行動分担の連絡や最終確認が、
直にしっかと交わされるのもこの日だったりするので。
出席率も結構良いし、団結力も盛り上がるとされており。

 【 教室や施設使用の申し込みがまだの部やグループは、
  今日中に実行委員会の受付まで申請書を提出してください。
  8月の第3土曜から第4、失礼しました、
  第2土曜から第3土…、
  第3日曜までは、お盆休みで構内は使用できません。】

言い間違えの出た校内放送へ“しっかりせんかい”とのツッコミが飛び、
ざわざわとした喧噪の立つ、HRも終わった校内は、だが、
さあ帰ろうという生徒より、さあ部活だと、
購買部や近所のコンビニで調達したそれだろう、
昼ご飯の包みを提げて飛び出してく顔触れのほうが断然多い。
そんな中のとある2年の教室で、

 「………何しとるんだ、島田。」

忘れ物でもとりに来たものか、一旦 教室から出てったはずのお友達が、
珍しいお顔が居残っているのへと、怪訝そうにお声をかけている。
ここのように部活動が盛んな学校であっても、
そういった団体活動には不参加な生徒の存在もまた そう珍しくはない昨今。
さすがに 本当に何にもしない無趣味な子ばかりでもなくて、
バイトが忙しい子や、
バイト先で知り合った友達の方が優先されている子。
バイトじゃない とある“オン”で知り合ったという間柄の人たちとの
オフのコミュで忙しい子とか(あーっと うーっと・苦笑)
そのケースも多様化している昨今にあって。

 表向き、
 剣道部のホープだったりエースだったりしながら。
 その実、
 それは純粋に 家へ帰りたい“帰宅部”所属の彼だというのは、
 もはや誰もが知るところの島田久蔵くんだのに。(笑)

もはや続きで妙な文脈だが、
もはや誰の姿もない教室に彼だけ居残りというのは
なかなか見られない風景で。
いやさ、よく見ればその足元にもう一人いる。
机に着いたままの彼へ、すぐ傍らの通路に座り込み、
正座のまんまの土下座もどき、必死で頭を下げている人影があり、

 「何だお前、えっと1年の岡本とか言ったよな。」
 「はいっ。」

そちらも目上の先輩格のお人から声をかけられたので、
返事をせねば非礼にあたると思ったか。
がばっと身を起こした彼は、
金髪赤眸の先輩様と同じ剣道部所属の、
岡本勝四郎とかいった一年部員じゃなかったか。
それが、わざわざ先輩の教室まで馳せ参じ、
しかもこうまで丁重に頭を下げているとは何事か。
確かに無口で無愛想な久蔵さんだが、
だからと言って、
後輩へ傲然とした態度を取るとか、
絶対服従しないと激怒するとか、
そういった性質の悪い話はとんと聞かないけどなぁと。
だってのに妙な構図だと思うほど よその部の事情を知りつつも、
こちらは弓道部の二年生、
髪は長いが軟弱じゃあない、筋骨も重々鍛えておいでの矢口くんが、
意外な様相だよなぁと小首を傾げて見下ろしておれば、

 「……何度もくどい。」

単調なお声でこぼした久蔵だったのは、
岡本くんへの感慨か、それとも矢口くんへの説明を兼ねたか。
くどい?と新たな要素へ目を見張った矢口くんへ、
手にしていた一枚の紙をほれと差し出した島田くんであり。

 「…………お。」

A5サイズの薄手の上質紙。そこへと刷られてあったのは、
某男子高主催の、夏のロックフェスティバルの案内ではないかいな。
ちょいと心当たりがあったればこそ、
おおと視線を止めてのまじまじと見やっている先輩なのへ、

 「矢口先輩からもお願いしてくださいよぉ。」

取り付く島もない島田先輩に、それでも食らいついてた岡本少年。
顔を出した彼へ久蔵がやっと口を利いたのをこれ幸いと思うたか、
こっちからも援軍に仕立てようとすがったものの、

 「何で俺が、
  しかも下級生から強要されて
  こいつにお願いせにゃならん

順番が違うだろうがこの野郎と、
こちらさんはちゃんと理の通った物言いをして下さったが、
ついでに足蹴にもしつつという、
いささか乱暴な断りようをする手ごわさだったりし。

 「…………。」
 「いじめはいかんぞ? だったらお前こそ話を聞いてやれ。」
 「凄い矢口先輩、以心伝心じゃないですか。」
 「あほう、こりゃあ慣れだ慣れっ。」

気がつきゃ、
要領を得ない同士でかみ合わない会話になってたらしい二人の
通訳がわりの位置へと置かれかかっている矢口くん。
そんな空気を他でもなく当人がいち早く読んでしまえたがため。
あああ、なんで俺って察しがいいんだろうかと、
貧乏くじを引いちまったなという自覚と共に
はぁあと雄々しい肩を落とすと、

 「あのな岡本。お前だってよ〜く知っとろうが。」

今時の高校生のくせに、
何でそんなにキラッキラな目のままなのお前…と。
島田くんへは何とか馴れたが、
こちらさんにはイマイチ馴れ合いたくないらしい、
こちらさんもかなりのレベルで空気が読めない後輩さんへ、
矢口くんが改めて問うたのが、

 「こいつは竹刀を振る以外は出来ない不器用もんだぞ?
  無趣味なのでも有名で、
  ロックどころか、
  あのAK●48を
  どっかの建設事業共同体だと思ってたくらいだ。」

 「…NPO団体じゃなかったか?」


   「………………………☆」×2


 ………榊先輩からレクチャーされててそれかお前、と。
 矢口くんのみならず、岡本くんまでもが
 眸を点にし、表情を止めたのは ともかくとして。

 「こういう奴を何でまた、
  バンドが集まって演奏を披露するぞ、いいか野郎どもってな集まりに
  誘おうってんだ。」

身のほど知らずも常識知らずも苦労知らずもいい加減にしろと、
世間知らずを前に言い募れば。
年下の方の世間知らずさんが目元をうるうるさせての言い返して曰く、

 「だって、弓野さんが主催の催しですのに。」

 ああ、やっぱりあいつか。
 従兄弟じゃあるが俺とは関係ねぇぞ。

 「つか、何でまたお前が、あいつと知り合いなんだ。」

過ぎるくらいに口を開かぬわ、愛想が悪いわ、流行ものを知らぬわと、
一歩間違えれば“イマドキ変な人”扱いされかねない久蔵さんには及ばぬが。
それでも…こっちの岡本くんも、
剣道一筋の生真面目少年であることくらい、
矢口くんもまた重々承知。
それが何でまた、畑違いもはなはだしい“ロックフェスティバル”なんていう、
軽音楽の集いのチラシを持って来たのか。
しかもどうやら、

 「もしかして、こいつを動員しろと言われたか。」
 「………はい。」

あいつめ、なんでまた名指しでこんなややこしい奴を知ってんだ、
良いとこの坊ちゃんは 無駄に奥の手持ってやがるから始末に負えんと、
しまいには がうがう吠えちゃった矢口くん。

  さて、ここで問題です。(…………おい)

彼の言う“弓野くん”とやらっていうのが、一体どこの誰さんか、
判ったあなたは なかなか記憶力が良いですよ。
もしかせんでも、
そっくりな誰かさんの代理に写真を掲載して第2弾のチラシを刷って、
女性客の動員に貢献させようって魂胆なんだろな…とか、
そこまで判ったお人ならば。
すいません、選りにも選って もーりんが、
あのシリーズのこのお人の肩書きは?
初登場はどこだっけ何だっけ?とウチの事情をド忘れしたら、
こっそりお聞きしても良いですか?…なんて、
何とも無責任な発言を置き去りに、
よく判らないけどどうやら夏休みは本格始動らしいですという
微妙なお話、これにて幕。(こらー)





   〜Fine〜  12.07.23.


  *さりげなくどのシリーズにも顔を出してるボウガンさんですが、
   名前が統一されてないので、いっそ判りやすいですよね。
   (ちなみに、
    宮原さんとの合作に出てくる六葩会の彼は関矢さんです。)

   逆にこのシリーズの久蔵さんは、
   名前も高校生という立場もそのままで
   他のシリーズにもちょろちょろと顔を出してるその上に、
   仔猫ファンタジーのVer.と一緒くたで、
   なんと本館のワンピパラレルにまで足を延ばしているややこしさです。
   ( 10.10.28.『
晩秋の訪のいに…』など参照 )
   だっていうのに、
   夏休みの過ごし方とか 代わり映えしない人でもあって。
   女子高生シリーズを少しは見習ったらいいんですのに。
   (あっちはあっちで大人しくしてほしい保護者かも?・笑)


  *それにつけても、
   七月が長かったなぁという感慨もとりあえずはおいといて、
   小学生も通知表を持って帰って来ての、
   いよいよの夏休みですねぇ。
   大人にはお盆までピンと来ませんが。

  「夏休みなぁ。」
  「遠い話題やなあ、お互いに。」

  結構な一等地にそびえ立つ、
  自社ビルの最上階オフィスにて。
  巨大スクリーンもかくやという大窓の向こうへ広がる
  青々と晴れ渡った夏空を背に。
  風格あるデスクを挟んでの、重要案件の書類片手。
  だがだが、全く関係のないフレーズを口になさってる、
  どこやらの企業のヤングエグゼクティブな幹部格二人。
  まだまだお若い風貌だってのに、
  新聞のスポーツ面、
  五輪のニュースとともに掲載された
  高校野球の記事へと溜息ついてたりしておいでで、

   “なに黄昏てはるかな。”

  何しろ、表向きのお顔とはまた別に。
  特殊な修行として、
  大人たちのお務めの手先だの補佐だの、
  命懸けの色々もこなして来た十代を
  忙しく駆け抜けた彼らなもんだから。
  人並みの学生時代というものは、
  話に聞くだけですっかりさっぱり無縁というもの。
  今更口惜しいとまでは思わないけれど、
  甘酸っぱくも瑞々しい年頃のあれやこれや、
  二度と触れられないなんてと
  思うところはそれぞれにお在りなようで。

  「俺らには そうやけど、
   如月、あんた確かまだ学生やったんちゃうんか?」

  新しい決裁書類を預かって来た、
  こちらも年齢不詳のうら若き特別秘書殿。
  撫でつけぬつややかな黒髪を映えさせる、
  白い手でデザインスーツの襟元を直しつつ、

  「何の話え?」

  一応は上司格の兄と御主とを、
  澄ましたお顔で交互に見比べる麗しい青年は、

  「とぼけてんのちゃうて。確か“修士課程”……。」

  畳み掛けかかった兄上の言を遮ってのいわく。

  「専攻しましたけど、
   しょっちゅう行方くらます誰かさんやら、
   その行方を追い切れんて、
   SOSの電話やらメールやらで
   ケータイもスマホもPCも他へ使えんようになるわ、
   追跡優先しとおくなはれてガッコまで迎えに来やはる
   誰かさんやらのお陰様で、
   初年度で早ようも“単位足り無さ過ぎ”て言われてしもて。
   教授とかに惜しまれつつ、それでも諦めましたけど?」

  それが何か?と、
  あらためての重ね重ね、
  訊き返す態度を取る敏腕秘書殿だったのへ、

  「…せやせや、今日は朝から会議があったんちゃうか?」
  「錦秋宴もオンザロックの会へ参入しまへんかてアレやな?」

  そそくさと話題を変えてしまわれる、誰か様たちの大人げのなさよ。

   “立場悪なったら、呼吸もよお合う、ええコンビやこと…。”

   ホンマですねぇ、如月様。
(苦笑)

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